(平成16年10月23日)
課題:「尾道からの手紙」 孫に伝えたい家
昔、おじいちゃんおばあちゃんの家にいくと、とても不思議なものに出会えました。 家の中に、靴を脱がなくてもいける土間や、台所があったり、薪(マキ)でたくお風呂 があったり。少し不便なところはあったけれど、何かワクワクしていたのを覚えています。 瀬戸内海を望む、尾道西方の鳴滝山中腹の丘陵地...眼下には瀬戸内の島々が広がり、 そこに行き交う船や山陽本線の電車が走る光景は、まるで箱庭のようです。 このような場所に、老夫婦が暮らす家を提案してください。 孫に少しでもなにか伝えられるような家を待っています。
■デザインコンペティション講評 “孫に伝えたい家”と副題のついた第7回の設計デザインコンペティションテーマは、日本各地で醸成されてきた住生活環境の固有性と場所性という観点から住まいの原点を再考するよい機会になったのではないかと思う。しかも、老夫婦の“終の棲み家”としての住まいをどのように捉えて表現していくのかということに対する提案も求められていることが狙いといえよう。 そこで、@尾道という場所性に対する理解度、A孫に伝えたい事柄と建築的表現、B老後の“終の棲み家”としての空間構成を念頭に置いて一次審査を行った。なお、応募は56件(社会人・大学院生29件、大学生24件、高校生3件)であり、応募数は昨年に比べて5割増であったことを申し添えたい。 今回の応募作品は、社会人・大学院生、大学生、高校生の3部門において総じて力作揃いであり、優れた作品や興味深い提案が多く、一次審査から慎重を極めた。しかし、一つひとつ作品を並べて協議していくと、尾道という場所性への理解不足(海岸地区と呼ばれる場所との混乱)の作品、単なるアイデアに終始して、建築表現が欠如している作品、尾道らしさがほとんど伝わらない作品、孫に伝えたいことへの提案が見当たらない作品といったように、評価が明確になってきた。残念ながら審査委員が一致して推薦できるグランプリに相当する作品は見当たらなかった。したがって、一次選考では、社会人・大学院生の部、大学生の部において、それぞれ一定以上の水準を満たしていると認められるもの(社会人・大学院生の部:7作品、大学生の部:8作品)を入選作として選んだ。入選作のうち、二次選考によって優れた作品を3点ずつ選び、金賞1点、入賞2点とした。高校生の部では、現実的な表現に終始しており、提案という点では内容的にやや欠けていたが、本設計コンペティションにおいては近年にない力作揃いであったことから応募3作品ともに入選作とし、今後の発展も期待し、そのうち1作品を方位を間違えているが意欲的な作品と評価して金賞とし、残り2作品は入賞とした。 二次選考における講評としては、以下の通りである。[社会人・大学院生の部]の金賞の「Triangle Roof House」は、老夫婦と孫と地域の人達を三角屋根に納めるコンセプトが非常に明解であり、かつ表現力にも優れている点が高く評価された。「三つの部屋と三つの眺めの場」は、手紙の文面に表現された老夫婦の生活習慣が平面構成にうまく反映されていたが、屋上のデザインなどに難点があることから金賞を逃した。「縁側のある家」は、孫との交流が伝わってきそうであったが、その様子をデザインとして表現しきれていないという点で金賞の支持は得られなかった。二次選考で漏れた入選作は、アイデアは素晴らしくても建築としてみたときに現実感に欠けたり、表現力の不足であったり、逆にまとまった作品として一定の評価を受けたが、コンセプトに対する表現力に難があったことが主な理由である。[大学生の部]の「尾道庭景の家」が金賞に選ばれた理由は、ル・コルビジェの「レマン湖の家」を想起させたが、孫に伝えたい尾道の箱庭の景色の切り取り方が大胆な空間構成となっている点が高く評価された。「DOMA HOUSE」は、土間を中心に2つの空間をつなげる方向で敷地をうまく利用しており、老後の自由な生活を彷彿とさせる予感を与えているが、孫に伝えたいことが伝わってこないという点で選考から外れた。「格子の家」は、面積を超えているが、祖父母の生きてきた姿を見せる構造と段差で表現し、生活のたくましさを伝えようとしている点が評価された。残りの5作品は、アイデアに優れたものや意欲的な作品であったが、建築表現が不足していたり、尾道のことや孫に伝えたいことの主張が弱かった点などが二次選考漏れの主な理由といえる。 本審査は、喜多村幸夫、瀧光夫、松本静夫、小野泰、宮地功、井上誠、無漏田の建築学科設計・計画系教員ほか、建築会の酒井要、小村治が行った。 (文責:審査委員長 無漏田芳信)
■協賛企業各社 堀田組、小村鉄筋工業 岡本建設、元広設計 りんかい日産建設、堀田組・向島中学校体育館現場事務所、葉名組 みさか