イラク戦争、銃犯罪、麻薬汚染、一部の階層にのみ集中する莫大な富
―― 抱えている諸問題がどんなに深刻なものであろうとも、この国の人々が世界で最も自由を愛し、最も自由に生きている人々であることに変わりはない。
「アメリカなど経済格差が大きく、自由の国でも民主主義の国でもない」
と批判する人がいる。経済格差が広がれば国民は不幸になると必ずしもいえない。どんなに経済格差があってもこの国の人々の精神状態は日本よりもはるかに健康に見える。いつもイライラしてしているような人を日本ではよく見かけたが、こちらではほとんど目にしない。自殺率は日本の半分である。経済格差と国民の幸福感は思ったよりも複雑な関係にあるのだ。
「アメリカが自由で民主主義の国なら、なぜ人種差別があるのか?」
という日本人がいる。確かにアメリカの自由も民主主義も理想にはまだまだほど遠い。しかし、差別に関して日本人にアメリカを非難する資格があるのか。在日韓国人、アイヌ民族、琉球民族などの少数民族の文化が大和民族のそれと同様に尊重されているとは到底言えず、それどころかこれらの民族に対する差別や偏見は、アメリカの人種差別よりも悪質でさえあるのではないか。
2008年の大統領選挙ではアフリカ系のバラク・オバマ
(民主党)
が当選した(アメリカの全人口における黒人の割合は10%ほどで、ヒスパニック系よりも少ない。黒人はまぎれもなく少数民族である)。また、民主党の予備選挙では女性候補のヒラリー・クリントンも善戦した。アメリカでは、女性候補が大統領になる日もそう遠くはないだろうと思われる。日本で上記の少数民族出身者や女性が内閣総理大臣になる日はいつなのか想像もできない。
日本にはそれ以外にもいろいろな差別がある。下の表を見ていただきたい。これは男女の平均賃金の格差の国際比較である。
男女間賃金格差の国際比較(男性=100)
日本は7年たっても2.5ポイントしか上がっておらず、依然として他国に比べ大きく後れを取っている。
短期間でもアメリカに滞在した経験のある方はお気づきになったと思うが、男女差別は日本と比較すれば相当に是正されている。私の住むピッツバーグでは、バスの運転手からして4割程度は女性である。ピッツバーグ大学の教育学部や、カーネギーメロン大学の人文学部・現代言語学科などでは女性の教官が半数かそれ以上いるように思われる。日本が抱えている問題はこれだけではない。日本には、さらに 「年齢差別」
も存在する (くわしくは、本サイト内の外から日本を考える、あるいは、転職について
のページをお読みください)。こうしたあからさまな男女差別や年齢差別が行われている国の国民にアメリカの人種差別を非難する資格はない。
「国民の過半数がイラク戦争に反対しているのに、政府が戦争を続行するような国が民主的といえるのか」
という批判もある。残念ながら、戦争を含む外交政策に関しては連邦政府の独壇場であり、一旦戦争が始まってしまうと国民は手も足も出ない。これは連邦制の欠陥でもあろう。しかし、国民は、次の大統領選挙で軍の撤退を唱える候補者を当選させることで、戦争を終結させることはできる。有権者が直接選挙で、政府の最高指導者=大統領を選べるというシステム
(大統領制)
に着目すれば、日本のような議院内閣制よりも民主的であると言えよう。また、内政的には、連邦制とは究極の地方分権であり、地方自治の充実度においては日本は足元にも及ばない。「地方自治は民主主義の学校」
というトックヴィル (フランスの思想家)
の言葉を思い出すまでもなく、地方分権というのは民主政治の基本的な要素である。日本には 「3割自治」
という言葉がある。行政権の7割は霞ヶ関の中央官庁に集中しているのである。アメリカの民主主義もまだまだ理想には遠いが、日本人がそれを非難するのは滑稽
(こっけい) である。
・・・アメリカの大統領選挙、とくに予備選挙の様子を見ていると、民主主義が実際に機能していると実感する。予備選に多大のコストが投入されているのは事実であろうが、そのコストは十分に意味があるコストだと言えるだろう。「アメリカは何に強いのか? ビジネスか、科学研究か、軍事力か?」と聞かれれば、「最も強いのは政治の仕組みだ」と答えざるをえない。 (野口悠紀雄)
1960年代に2億人だった合衆国の人口は、2006年に3億人を超えた。わずか40年ほどの間に、日本の人口ほどの人数が増えたことになる。
これはもちろんアメリカ人の出生率が上がったからではなく、世界中から移民が続々と押し寄せてくるからである。もし本当にアメリカが自由でも民主的でもないのならば、なぜ今日も続々と世界中から移住者がやってくるのか。アメリカ型資本主義においては経済格差が広がるのは確かだが、たとえそうであっても、この国では努力すれば報われるチャンスもまた世界で最大なのである。貧しい移住者が努力して裕福になった例は数知れず、「アメリカでは、貧しい移民でも努力すれば報われる」というのは嘘ではない。
合衆国の永住権が欲しい人のための抽選というのがあり、応募すれば抽選で当たる場合があるのはご存知だと思うが、「先進国」と呼ばれる国の中で、日本人の応募者が異常に多いと日本の報道番組が伝えていた。特に若者が多く応募しているようだ。これが意味するところのものは何なのか。国土が広いといった単純な問題ではない。社会に閉塞感がなく、「明日は今日よりも素晴らしい」
という希望を持って生きていくことを社会が可能にするからであろう。また、合衆国も一時少子化の問題を抱えたが、克服している。
2011年秋に、日本の内閣府が行った外交に関する世論調査によると、日本人の82%は、「アメリカに親しみを感じる」
と考えており、この82%という数字は、1978年の調査開始以来、最大ということである。日本人5人のうち、4人はアメリカに好感を持っているということだが、筆者には当然のことに思える。
素晴らしきメジャー・リーグ・ベースボール、魂を揺さぶるジャズ、興奮と感動のハリウッド映画、世界に冠たる研究水準を誇る大学や研究機関 ・・・
もし、アメリカ合衆国という国が存在しなかったなら、この地球はどんなにつまらない星だったことだろう。